頭上の異界 不信の国の若者たちと重大少年事件

"人との関係のなかで歪んだ部分は、人とのかかわりのうちで癒えるはずである。――"『頭上の異界』より抜粋
ジャンル:ハードカバー
評価:☆☆☆☆☆
少年犯罪の増加・・・・・・そういったことが声高々に叫ばれているが実際はそうではない。単純に検挙率が上がっていること、それと共に、これまでではあまり考えられないような残忍な殺人事件が一部に見られ、それらがメディアによって過度に脚色されて放送されることで、その影響を受ける国民の認知が変化したことが大きい。
この本の著者は、法務省矯正局で「矯正教官」として37年間に渡る経歴の大部分を医療少年院で医者として過ごし、終わりの12年間を院長を兼務して処遇の調整役にあたってきた。
医療少年院とは、家庭裁判所の審判決定で少年院に移送される少年のうち、心身に著しい故障があるためにまず医療を要する者を広域から収容し、機能を高める必要から「病院」の認可を受けている場所である。(『頭上の異界』より抜粋)
ここでは、疾病の治療と並行し矯正教育も行われている。
この本を読んで、これまで知らなかった世界が見えてきた。少年院という場所では、一体どのようなことが指導されているのか?陰惨な殺戮をした少年たちは、少年院に行き矯正を受けて2〜3年で社会に再び出てくる・・・・・・それは被害者にとってあまりにも短すぎはしないだろうか?そんな疑問は前々からあった。だが、僕は知らなかった・・・・・少年院という場所を、そこで働く矯正教官の驚くほど真面目で忍耐強い姿勢を。
本の内容にも少し触れておくと、第一部では医療少年院についての概略と、これまでの少年犯罪の歴史、犯罪を犯した少年たちの分類、精神障害が疑われる少年たちのそれぞれの病名の説明とそれに対する事例の提示がされている。実際に事例を紹介していることで、例えば、アスペルガー症候群とはどういう病気であるか?その病気にかかった少年はどのような思考をするのか?ということを知ることが出来る。
第二部では、いわゆる「いきなり型非行」(これまで犯歴も無く、一見真面目そうな少年がいきなり凶悪殺人等を犯す例)について描かれている。これについて、著者は、存在しないと言っている。つまり、犯罪を犯す前に少年たちは何らかの問題行動や問題のある状況を抱えていたと指摘している。そして、それに気付かずに、そのまま放置しているこの国の社会自体に非があると言っている。その具体例として家庭環境その他幾つかが提示がされていて、興味深い。
第三部(最終部)では、実際に著者が関東医療少年院で働き、その上での治療と教育についてである。ここでは、治療者側からの視点に重点を置いている。
この本は読みやすい。確かに、専門書にはなるかもしれないが、著者の筆力はかなり優れているので、その印象をあまり受けない。何より、著者自身が本の中で述べているように、若者に向けて書かれた本であるからでもあろう。その点で、より多くの人にこの本を読んで欲しいと切に思う。
凶悪犯罪(殺人など)を犯した少年に対して、一律に死刑にすれば良いとは僕は思わない。もちろん被害者の気持ちを考えれば、死刑にしろ、無期刑に・・・・・・と望む気持ちは当然あるだろう。でも、厳罰化したからと言って、果たして本当に少年犯罪は減るのだろうか?もしかしたら、それによって、一時的に減るのかもしれない。けれど、それは問題の根本の解決には何ら至っていない。彼らの幼い頃からの環境、家族・・・・・そういうところに問題は潜んでいるのではないか。そこを改善しないでただ厳罰化すれば良いというものではない。
3年やそこらで社会復帰するのは早すぎる・・・・・そう思っている人たちの一体何人が、少年院とはどういう場所でどのような矯正が行われ、そして犯罪を犯した少年たちがどのような境遇を抱え、どのような思考をしているのかを推し量ったことがあるだろうか?
日常世界でそれを知ることはなかなか困難であるが、この本を読めばその一端は少なくとも知ることが出来る。
少年犯罪を語る、考える上で必読の一冊。