深い河
深い河

“「どこに行った」
河は彼の叫びを受けとめたまま黙々と流れていく。だがその銀色の沈黙には、ある力があった。河は今日まであまたの人間の死を包みながら、それを次の世に運んだように、川原の岩に腰かけた男の人生の声も運んでいった。――『深い河』より抜粋”
ジャンル:小説(文庫本)
評価:☆☆☆

ガンジス河。それは、多くの人の終着点。そして、それは、個人の悲しみ、苦しみ、痛み、そして彼らの身体さえも大きく包み込み受け止めて流れている。
それぞれの生きる目的は違っても、結局最後は皆、ガンジス河の偉大な流れの中に飲み込まれていく。
インドへ旅立つ日本人団体旅行者。彼らはそれぞれの心にそれぞれの傷を抱えながら、やがてガンジス河のほとりに辿り着く・・・気がつけば後悔だらけの自分の人生を回顧して、そして悔やんでも何も変わらないことは分かっていてそれでも、それを止めることが出来ない。
小説の構成としては、一人一人の登場人物に焦点を当てた書き方がされていて、それが良い面でもあるし、悪い面でもあるように感じた。良い面は、それぞれの心の中に抱えるものを知って、それに対して共感したり反感したりする選択肢が読者に委ねられている点。悪い面は、やはり、一人に絞っていないあまり、感情移入がしにくい点。
でも、全体としては本当に深く考えさせられる作品だと思う。

人が生きていくこと、信じること・・・それは時に苦しみを生み出し、そして、安らぎをもたらす・・・

2005.08.31 Wed l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲
一人旅よくばりヨーロッパ―ケチケチ旅行王の「とっておき情報」と「泣き笑い体験」!
一人旅よくばりヨーロッパ―ケチケチ旅行王の「とっておき情報」と「泣き笑い体験」!


ジャンル:ヨーロッパ一人旅について(文庫本)
評価:☆☆

1章の著者のヨーロッパでの印象を綴った部分だが、正直、必要ないように感じた。この部分は、著者の考えが前面に出ていて、それについていける人じゃないと、読むのが苦痛だろう・・・ステレオタイプ的な記述も少し気になった。10カ国に絞ってはあるが、それでも多い。ページの関係もあるのだろうが、ものすごく中途半端な感じは否めない。
それに比べて、2章は、旅行気風になっているので読み易い。実際にヨーロッパをユーレイルパス(ヨーロッパの主要国の列車に乗車可能のパス)を使って著者が旅しているので、今後、このパスを利用する人は読むと為になると思う。
第3章は一人旅をする際の安全マニュアルということで、漠然と一人旅をしてみたいと考えている人には、最適だ。本がヨーロッパに限定してあるので、ヨーロッパを一人旅する事を前提に書かれているが、他国でも、基本的な部分はほとんど同じなので、参考になると思う。


2005.08.29 Mon l 旅行記 l COM(0) TB(0) l top ▲
夏の朝の成層圏
夏の朝の成層圏

“・・・人の目は正面を見るようにできている。――『夏の朝の成層圏』より抜粋”
ジャンル:小説(文庫本)
評価:☆☆☆☆

上記に抜粋した文章を読んだ時、鳥肌が立った。それは、当たり前すぎて忘れている何かを、「ほら」と差し出されたような奇妙な感覚だった。
何故だか、この作家の文体は自分ととても波長が合う。にも拘らず、ラストは何となく納得がいかない。『スティル・ライフ』の感想でも書いたけれど、そっと薄まっていき、やがて消えてしまう霧のようで曖昧とした終わり方は、やっぱり好きになれない。それ以外は、自分としてはパーフェクトをあげたいくらいなのに・・・惜しいと思う。もちろん、これは自分が勝手に思っているだけなので、気に入る人は気に入るだろうけど。
ストーリーの展開としては、特に目新しい点は無いと思う。無人島に漂着した男が、その島で必死に生きていく、やがて男はその島での暮らしと、それまでの暮らしを対比して・・・という感じだ。でも、文章は所々で輝きを放っている。それは、真っ暗な空に浮かぶ星のように。ただ、全てが全て奇麗事で終わらない。この作品には、とげがある。それをどう受け止めるかは人それぞれだと思うけど、自分はその点もこの作品の良さだと思った。
現実を逃げ出して無人島に行きたいと思っている人達へ…
2005.08.11 Thu l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲
スティル・ライフ
スティル・ライフ



“見えないガラスの糸が空の上から海の底まで何億本も伸びていて、雪は一片ずつその糸を伝って降りて行く。・・・音もなく限りなく降ってくる雪を見ているうちに、雪が降ってくるのではないことに気付いた。・・・雪が降るのではない。雪片に満たされた宇宙を、僕を乗せたこの世界の方が上へ上へと昇っているのだ。静かに、滑らかに、着実に、世界は上昇を続けていた。・・・――『スティル・ライフ』より抜粋”
ジャンル:小説(文庫本)
評価:☆☆☆☆☆

この作品が、第98回芥川賞受賞作・・・なるほど、と納得できた。それは、上記に抜粋した部分を読んで頂ければ、十分に理解頂けると思う。本の評価を付け始めてから、初めて5つ星を付けた。正直に言えば、この作品のラストは、あまり自分の納得のいくものではなかった。本を読んで頂ければ分かるが、何となく、霧の中に紛れさせてしまったかのような不安定な終わり方だったからだ。それでも、5つ星を付けたのは、やっぱり、読んでいる最中に感じた言葉の美しさと、表題作に負けないくらい素晴らしい『ヤー・チャイカ』という作品が収められているからだろう。
本を読むことの楽しみの一つとして、普段は感じることの出来ない言葉の持つ本来の力を感じる事が出来る、という事が挙げられると思うけれど、実際に、そのような作品に出逢える事は少ない。でも、この作品は文句なく、その1つに数えて良いと思う。
傾向としては、少し、村上春樹的な部分があるので、彼の作品が好きな方は是非チェックしてみてほしい。


2005.08.04 Thu l 小説 l COM(2) TB(0) l top ▲