いつでも夢を TOKYOオトギバナシ
いつでも夢を TOKYOオトギバナシ

″「戸田さん」
と武藤は声をかけた。
「――人生は、虹ですか?」微笑って、尋ねてみた。
「――ああ、それ」
とジローは応えた。「――いや、なんとなく、思いついただけで」――"『いつでも夢を TOKYOオトギバナシ』より抜粋
スタイル:ハードカバー
評価:☆☆☆☆

夜、雨が降っている。その中を、傘も差さずにただ一人の女がびしょ濡れになりながら、レンガ造りの植込みの端に、ぼんやりと座っている。・・・・・・こんなシーンから始まる物語。先を読みたくなる。彼女は何故、雨の中、傘も差さずに座り込んでいるのか。その理由を知りたくなる。

ただ、読み進めていくうちに、何となく先が見えてしまったのが少し残念だ。登場人物に関しても、上手く描ききれていない人がいて、それが最後まで引っかかった。

けれど、僕はやっぱりこの作家が描き出す一人一人の人間模様が堪らなく好きだ。人が生きていくということに対して、とても率直に書かれている。人は楽しさの裏に悲しさを持っている。楽しい時間があれば、それと同じ比率で悲しい時間がある。それを忘れてしまって、悲しい時間にばかり目を向けたり、その逆で生きたりすると、どこかで、「虚しさ」が漂ってくる。

僕たちは、喜びも悲しみも全てひっくるめて歩いていく・・・・・・そうやって生きていくしかない。でも、誰だって一人じゃない。いつか誰かに助けられたように、あなたもきっと誰かを助けている。そうやって世界は成り立っている。そのことが、とても素直に感じられるやさしく素敵な物語。


2006.07.28 Fri l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲
ニート
ニート


″ キミはあらゆる権利の外にいて、健康だが働いていないし働く気もない。つまりキミはニートだ。キミは自分が社会から援助を受けることができないのを良く知っているし、他人からの援助を受けるには申し訳ないと思っている。とても失礼なことを言うけれど、キミにはニートの方が向いている。似合わないスーツを着るよりも。――"『ニート』より抜粋
スタイル:ハードカバー
評価:☆☆☆
幼い頃から働くことに関心がもてなかった。何故、働かなければならないのか?自分が社会の為、誰かのために働くことなんて、くだらないと思っていた。元々、社会奉仕精神なんて、これっぽっちも僕は持ち合わせていなかった。だから、高校を卒業する時も、当たり前のように大学進学を決めた。それはもちろん大学で自分の興味のある分野を学びたいという気持ちもあったけれど、単純に働くことに対するモラトリアム期間を得たいという気持ちも強かった。この文章を読んでいる働いている人たちからすれば、僕はなんと甘えた考えを持っているんだ?と思われるかもしれない。一体誰のおかげでご飯が食べられたり、パソコンが使えたりするのか、考えた事があるのか?とお叱りの言葉を受けるかもしれない。
僕はそれに反論する権利はない。でも、ひとつだけ言わせてもらうのなら、僕にだって感謝の気持ちはあるし、きっといつか働かなくてはいけないんだってことぐらい分かっている。でも、その「いつか」を決めることが出来なかったのだ。

社会に全く属していないということは、所属に関するアイデンティティが全く欠落している状態である。この状態は、大抵の人間にとって酷く不安な心理に陥るはずだ。ニートの彼らも、きっとどこか不安なのだ。冒頭で紹介した文章でもあるように、ニートたちは、多分、その立場自体を決して無条件に肯定しているわけではないと思う。社会の目は、働きもせずに、学校に通うわけでもない彼らを、「負け組」の最下層に位置づけ、否定の目は持っても決して肯定の目は持たないであろう。
しかし、そもそも何故私たちは働かなければならないのだろうか。それは、お金を得るためであろうか?そして、生活をするためであろうか?だとしたら、お金とはそもそも本当に必要なものだろうか?単なる通貨であり、自国を出れば紙切れ同然のそれらが、果たして一体どれほどの価値があるというのだろうか?
また、少数かもしれないが、自分の夢があってそれを実現させた人達もいる。でも、それは自分が好きなことだから頑張れたのであって、そこで成功しているから良いが、成功できなかった人たちはどうすれば良いのだろう?他にも、例えば全くお金にならないことを沢山知っていたとして、それはだから全く無意味だと本当に言い切れるだろうか?

ニートの存在は、働くことが当たり前というひとつの概念を壊した。僕はそれだけでも彼らの存在が認められて良かったと思っている。
彼らは極めて弱い。誰かが彼らに援助しなければたちまち彼らは生きていけなくなる。その状態が、この本では上手く描かれている。短編形式であり、ニートと関連がない作品もあるが、表題作の「ニート」とそれの続編の形式の「2+1」は良かった。他の作品は正直言って、あまり好きになれなかった。
2006.07.27 Thu l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲
九月の四分の一
九月の四分の一

″ 僕は何も考えず、綿菓子のように確かな形も持たないまま、ただ茫然とそれを眺め続けていた。月も星もやがて、その隙間から消え去り、暗い空だけになっても、僕は同じ場所に視線を向けていた。屋根という定規で仕切られたような、不恰好な三角形の空を、何時間も何時間も。
 まるで、できたばかりの綿菓子みたいに。――"『九月の四分の一』より抜粋
スタイル:ハードカバー
評価:☆☆☆
この本は短編集である。前にも書いたことがあると思うが、短編集というのは、本当に評価に困る。本来なら一つひとつに対して書評をすべきなのだろうが、そこまでして感想を書きたいとは思わない。それはこの本がつまらないとかそういう意味ではなく、単に僕が面倒臭がりやだからだ。4篇の短編で、最後の「九月の四分の一」以外、主人公が全て出版社で働く設定なのは、如何なものだろう。それでなくても、この作家の主人公はしばしば編集者である。それがこの作家のスタイルなのだとすればそれまでなのだが、一読者としてはもう少しバラエティを加えて欲しいと思ってしまう。

それにしても、出会いと別れが良く描かれている。当たり前だといわれそうだが、これは小説だ。出会って幸せに暮らしてハッピーエンドでも、全然構わないはずだ。でも、この作者はそれをしない。あえて、出会った相手とはいつか別れる・・・・・・それを予感させて実際に実現させる。現実世界に即した小説。それはとてもリアリティがあって、痛く、そしてせつなさをもたらす。一期一会を上手く切り取った短編集。どの作品も良いと思ったが特に、「ケンジントンに捧げる花束」が良かった。
2006.07.25 Tue l 小説 l COM(0) TB(1) l top ▲
流れ星が消えないうちに
流れ星が消えないうちに

″それはまるで、星を眺める行為と似ている。僕自身はみっともなく地面に張りついて、嫉妬やら欲望やらに塗れながら生きているけれど、星は僕のことなんてお構いなしという感じで、ただきらきらと輝いているのだ。加地は・・・・・・いや、加地と奈緒子は、僕にとってそういう存在だった。――"『流れ星が消えないうちに』より抜粋
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評価:☆☆☆☆
僕がこれまでの生涯の中で忘れられない夜空は、ニュージーランドで見た零れ落ちるくらいに沢山の星が広がった空。流れ星さえ、流星群を見ているわけでもないのに、三十分程度の間に5つも流れた。あの時、あの場所で見た夜空の下、僕は確かに地球が宇宙に存在していて沢山の星たちに囲まれているのだということを心から感じた。そして、自分がこの場所に生きているのだということが、ひしひしと心の内側から湧きあがってきた。その夜空は人が生きるということの究極的にシンプルなそれでいて根源的なことを僕に思い出させてくれた。

流れ星が消えないうちに、僕は願い事を祈ろうとしたけれど、なかなか上手くいかなかった。驚きばかりが先行していて、あっという間にそれは流れ去っていった。五回のうち、最後の数回の時に、全ての人の幸福を繰り返し祈った。あの空を前にして、僕は自分の幸せや、自分の周りの人だけの幸せなんて祈れなかった。この空が、全ての希望を忘れた人たちに届けば良いと思いながら、僕は願いを込めた。

書評に入る。
加地が死んでしまってから、玄関で眠るようになった奈緒子。その奈緒子と今付き合っている巧もまた、加地の友人であった。加地という人物が、奈緒子と加地の中でとても大きな存在であったのだが、その存在が消えてしまった後、彼らが悩み苦しみながらも生きていく姿を奈緒子の視点、巧の視点を交互に織り交ぜて書かれている。

この作家の文体や言葉の使い方が、僕はとても好きだし、ストーリー自体もとても良いと思う。登場人物の感情の細かい機微も上手く表現されていて、その面では全く文句は無い。強いてあげるとすれば、少し加地という人物が奈緒子と巧にとって、偉大すぎる人物であった為、彼らの視点を通して描かれる日常が少し重い。読者として、彼らの視点に上手く入り込めるか、感情移入できるかがこの本の印象を決める鍵だと思う。

2006.07.25 Tue l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲
大切な約束―How tears fall
大切な約束―How tears fall

約束というのは、とても素敵なものだ。それがあるだけで、未来に対して少し希望が持てる気がする。約束は、常に将来に向けて発する希望。そして、それは相手に対する自分の真摯な気持ちを試されているということでもある。つまり、約束を破った場合、その相手から自分は信用を失う。このリスクのある行動を、その当事者間の合意で行う・・・・・・そこに生まれる心地良い拘束感。それを得たくて、人は約束をするのかもしれない。

どこにでもありそうな話。シンデレラ・ストーリー。主人公が、とても苦労して生きていく話。親子の話。母と子の約束の話。

明らかに意識されている。この本は、明らかに「感動させる」ことを意識して書かれている。とてもシンプルで短く、さらっと読めてしまう。小説というより、大人向けの童話に近い。

人は自分より苦しく生きている人がいると知ると、安心する生き物だ。僕は、奇麗事を言いたくないから、あえてこれを書く。どこかで、子どもの殺人事件があれば、世間の親達は、その子どもを気の毒に思う一方で、自分の子どもでなくて良かった・・・・・・と安堵している。難病だったり、歩くことが困難だったり、目が見えなかったり・・・・・・そういった人たちを知って、彼らのために何かしたいと思っても、その裏に隠れているのは、自分ではなくて良かったという思い。

他人の不幸は自分の幸福への再確認。

だからこそ、いわゆる「泣ける」本、映画がヒットする。この本もその一連の流れに沿ったものだろう。でも、それ自体が悪いとは僕は思わない。需要があるから供給が生まれる。

人間というのは、所詮そんなに高潔にはなりきれないということは、既に誰もが分かっている。人の不幸を知って、今の自分の幸せを確認する。もちろん、それが幸せの全てではない。他にも幸せを認識する方法はたくさんあるだろう。けれど、これはとても簡単で分かりやすい幸せの確認の仕方だ。だから、手っ取り早く幸せを確認したいのならこの本を読めば良い。


でも、もっと純粋に、読むことも出来る。
母親と子どもの絆を描いた感動の物語。
母親との約束・・・・・・それはとても大切な約束だった・・・・・・。

−−−−−−−−
感想を書いて、アマゾンで検索したら、どうやら、ある有名歌手の実話をストーリー化したものらしいと知った。僕はこの本を純粋に物語として読んだので、ここでいくつか批判的な意見を展開しているが、それが実際の人物に対する批判ではないことを付け加えておく。というか、そもそも、この話が実話を基にした話だと知っていれば、評価も少し変わっただろうと思う。
評価:☆☆☆

2006.07.17 Mon l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲
いま、会いにゆきます
いま、会いにゆきます

″「赤穂くん?」
「何?」
「いま、どこにいるの?」
「旅の途中だよ。きみの町から300kmぐらい離れた場所にいる」
「ねえ」
「うん」
「私、会いに行ってもいい?」――"『いま、会いにゆきます』より抜粋
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評価:☆☆☆☆☆
愛する人を失うことは何故、こんなにも辛いのだろう?・・・・・・人は、誰かを愛さなくては生きていけないという考え方があるけれど、これは必ずしも正しいとはいえない。人が生きるためには、誰かを愛さなくてはいけない、ということもあるのかもしれない。けれど、人はまず生きることが最優先事項であって、誰かを愛したり、やさしくしたり、といったことはあくまで2次的なものだ。

それなのに、人は誰かを好きになってしまう。そこに理由なんてものは必要ではないし、それを定義づけることは全く愚かな行為でしかない。
好きになりたいからなるのではなく、好きになってしまうという表現の方が本質に近い気がする。そして、やがてその好きな人が愛する人に代わり、一緒に暮らすようになり、子どもが生まれる。何気ないけれどとても幸福な生活が続いていく。でも幸福の中にいる人は、しばしばそれ自体が幸福だということを忘れがちだ。
それは、誰にもやがてやってくること。最期の時・・・・・・。結婚をして、どちらかが先に死んでしまうことは、もうかなりの確率で起こりえることだ。けれど、まだ子どもが幼くて、母親という存在を求めているのだとしたら・・・・・・妻に対し自分の不甲斐無さを生前に詫びられなかったことをずっと後悔しているのだとしたら・・・・・・。この本はそんな者達に訪れた、奇蹟の物語。
死んだはずの妻が生き返った。死んだはずの母親が生き返った。そんなことはあり得ない。現実世界ではありえないのだ。それを夫も子どもも、分かっていながら、でも目の前の現実にただ喜び安堵した。しかし、この幸福は長くは続かなかった。雨の季節と共に訪れ、そして去っていく・・・・・・期間限定の、僅か6週間の奇蹟だった・・・・・・。

登場人物の全ての人たちに、好感が持てる。具体的に書くととてもやさしい気持ちが溢れている。そして、それは、この本を読む人の心に、限りないやさしい雨を降らせてくれる。

これは家族の物語。誰かを失うことはやっぱりとても辛く悲しい。けれど、この本の主人公たちは知っている。やがて、またどこかで会えるということを。例えばそれは、アーカイブ星なんていう名前の星で・・・・・・。

余談だが、この本ほど、家族の絆を上手く書いた本というのはなかなか無いと思う。家族には様々な形があって、必ずしも全てが幸福なものではないだろう。けれど、この本には、家族の持つ本来の幸福な部分が描かれていて、悲しいのだけれど、どこか希望がある。
かならず誰もが、家族という枠組みに所属している。だからきっと全ての人に、何かしら響くものがある本だと思う。
2006.07.02 Sun l 小説 l COM(0) TB(1) l top ▲
真昼のプリニウス
真昼のプリニウス


″手紙は投函された。それが高度三万四千フィートの薄い空気を切って地球の反対側へと飛翔してゆくところを頼子は想像した。――"『真昼のプリニウス』より抜粋
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評価:☆☆

この本は、著者で選んで読んだ本だった。しかし、期待は裏切られた。同著者の『スティル・ライフ』に遠く及ばない気がする。本なら何でもそうだと思うのだが、読んでいる途中で、あまり面白くないと感じてしまうと、もうその時点でその本の内容に入り込めなくなる。どうにか最後まで読み終え、途中、著者らしさが出ている文章を見つけて、それに少しだけ救われた思いだった。

2006.07.01 Sat l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲