約束
約束

″ いけないのは、きっと考えすぎてしまうことなのだろう。クラスのみんなのようになにも考えなければいいのだ。なぜ誰もが同じ制服を着ているのか。なぜ学校指定のカバンをもたなければいけないのか。なぜ四十の机が同じ方向を向いているのか。 ――"『約束』の「夕日へ続く道」より抜粋
スタイル:ハードカバー
評価:☆☆☆☆

 学校というのは、僕にとって最低の場所であると同時に最後の砦でもあった。集団で一つひとつを規定するその場所での生活に僕は明らかについていけないと思っていた。その反面、皆と同じ制服を着て、同じカバンを持って・・・そういった同じ色に染まることに安堵してもいた。
 思えば、学校生活で楽しかったという思い出なんてほとんど無いけれど、僕は逆に学校に行かなくなる自分と言うのが怖かった。学校に行っていない自分というのは、それだけで様々な事から外れてしまう。そのことを想像するだけで、どんなに辛くても学校には行かなくてはいけないと思っていた。

 この本は短編集である。あとがきで作者が言っているように、「みんな、今はうつむいていてもいいから、いつかは顔をあげて、まえにすすもう。」ということを伝えたかったということで、全ての作品が前向きに終わっている。中には短編ということで、多少物足りなさを感じる作品もあるが、全体的に終わりが良い作品というのは読後感が良い。

 誰もが悩みを抱え、誰かの死を抱え、そうやって生きている。その一人ひとりの生活の一部を丁寧にそっと切り取った短編集。
2006.08.31 Thu l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲
天国はまだ遠く
天国はまだ遠く

″ ずっと前から決めていた。今度だめだと思ったら、もうやめようって。いつも優柔不断で結局失敗してしまうけど、今度の決意は固い。一度切ろうと思ったものを引き延ばすのには力がいる。もう終わりにしようと思ったら、長引かせちゃいけない。本当に終わりにするのだ。――"『天国はまだ遠く』より抜粋
スタイル:ハードカバー
評価:☆☆☆☆☆

 人は一体何故生きるのだろう。そんなことをぼんやりと、僕は中学生の頃、一人机に座りながら考えていた。誰とも話をしないで、誰にも心を開かないで、いつもひとりでいた。最初は酷く苦しかったり辛かったりした。でも、その感情さえも麻痺したように次第に薄れていき、やがて、僕は休み時間の大半を人生について考えるようになっていった。けれど、どんなに考えても答えは出なかった。一時的に、考えることを放棄して、そうやって何とか自分を保とうとしたこともあった。思えば、僕はあの頃、生きることに目的を見出そうと必死だった。いまは辛いけれど、将来いつか幸せを心から感じられる時が来ると信じていた。そう信じなければとてもじゃないけれど、生きるという行為を続けられそうになかったから。
 死んでしまおうと考えたことは、何度かあった。その度に僕は必死でそれを抑えようとした。何より僕は僕自身の将来について必死に希望を見出そうとしていた。その意味で、あの頃はいまよりももっと健全だったかもしれない。でも、そんな気持ちもいつかは薄れていく。高校生になっても、結局中学の時と変わらない日々が続き、僕は本当に生きることが嫌になっていた。もう何もかもが面倒だと思った。ご飯を食べることも、寝ることも、息をすることも・・・・・・。だからある日、カッターナイフを持ってみた。左手にそれをそっと当てた。後はすっとそれを引くだけで、赤い液体が流れ出てくるはずだった。でも、僕はどうしてもそのカッターナイフをそれ以上動かすことが出来なかった。怖かった。何が具体的に怖かったのかを、僕はもう思い出せないが、今思えば本気で死のうとは思っていなかったと思う。
 これ以来、僕は特に自殺もしくは自傷行為をしていない。けれど、死に気持ちが時々傾くことは今でもあるし、それを扱った小説は率先して読んでいる。
 死ぬことを考えるということは常に生きることを考えることと同義だ。死んでしまいたい、と思っている人は生きることを本当に真面目に考えているからこそ、死を選ぶしかないと思ってしまう。本当は、そんな必要も無いのに、人間なんていつかは必ず死んでしまうのに、でも死を選ぼうとする人がいて、実際に死んでしまう人がいる。そんな時、彼、彼女のそばに誰かがいてくれたら、また違うのかもしれないと思う。一人でも、心の底から彼らを思い、大丈夫だよ、一緒に生きていこうよ、そう言ってくれる人がいれば、ほんの少しでも死ぬことを先延ばしできるかもしれない。
 冒頭に抜粋した部分は、この本の一番最初の文章だ。この部分を読んだだけでは、シリアスに物語が展開するような感じがしてしまうが、決してそうではない。そこが、この本の魅力である。
 主人公は自殺をするために木屋谷という田舎の集落へ行く・・・・・・民宿に泊まり睡眠薬を大量に飲んで後は死ぬだけ・・・・・・。
 これ以上は、説明しない方が良いと思う。実際に、この本を読んでもらえれば分かるが、結局の所、生きることにあまりに真剣になってはいけないのかもしれない。どこか、ふっと力の抜けたくらいでちょうど良いのかもしれない。そんなことを感じた本。
 生きること、死ぬことに真面目な人たちへ贈りたい本。
2006.08.28 Mon l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲
青空のルーレット
青空のルーレット

″「・・・・・・人生は、きっと”人生は何だろう”って問われるために僕達に有るんじゃないのかな・・・・・・」萩原さんは、そんなことを言った。
「・・・・・・人生は、そう問われたくて、そこに有るんだろうと思う・・・・・・それを問わずに生きていける人は確かに幸福なんだろうけど、――でも幸福は、それを問わずに居られない気持で生きている人の毎日の中にこそ、有るんだろう、と――人生というのは、きっと、そういうものだろうと、僕は思ってるよ・・・・・・」――"『青空のルーレット』より抜粋
スタイル:ハードカバー
評価:☆☆☆☆

 窓を拭いている若者たち。彼らにはそれぞれ夢があった。バンドで成功したい、漫画家になりたい、役者になりたい・・・・・・。けれど、窓拭きの仕事だって、彼らは本気でやっている。決して中途半端な気持ちではない。そんな彼らの日々に起こるある事件・・・・・・。
 
 この小説には、「人間」が描かれている。全く飾られることのないそのままの人間たちの絆、戸惑い、絶望、そして希望。だから、心が揺さぶられる。
 

 読み終わった後の爽やかさが、心にいつまでも余韻を残す。
2006.08.19 Sat l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲
終末のフール
終末のフール


″「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?」文字だから想像するほかないけれど、苗場さんの口調は丁寧だったに違いない。「あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」――"『終末のフール』の「鋼鉄のウール」より抜粋
スタイル:ハードカバー
評価:☆☆☆☆☆
 あと数年で小惑星が地球に衝突して、人類は滅んでしまう・・・・・・その時、人は何を考え、行動するのか・・・・・・。最初に起こる大混乱、その後のつかの間の休息、そしてまた混乱への逆戻りをして世界は終末を迎える。この本には、大混乱の時期をあえて、書いていない。人々が、あと8年で世界が終わると知った当初の混乱は過去のこととして描かれ、小惑星が衝突するまでの3年間を過ごす人々を描く。それは、まさにつかの間に訪れた平和なひととき。けれど、彼らは既に多くのものを失っていた。
 淡々と描かれる日常のなかで、ふと飛び出す終わりへの絶対なる恐怖。短編形式になっているが、設定はどれも同じであり、登場人物が異なっている。それぞれの人生が、短編の枠を超えて交差するこの本は、1冊の本としての完成度が高い。文章も淀みがなく、この作家の他の本も読んでみたいと思った。


 終わりを意識すると、人はどうなるのだろう。どうせ、死んでしまうのだから・・・と絶望するだろうか。それとも、どうせ、死んでしまうのだから・・・と今ある日々を大切に希望を持って生きようと思うだろうか。いや、もしかしたら何も変わらないかもしれない。これはとても不思議だ。相反する思いが、同じ設定から生まれる。
 僕は、将来設計というものを立てることが出来ない。明日があると思って生きていると、今目の前にあるものが、途端にどうでも良いつまらないものに思えてしまうから。だから、数年先ならともかく、10年先とか20年先まで将来を見据えて生きている人たちに出会うとただ、驚いてしまう。何故、彼らがそんな先のことまで考えて、今を生きていられるのかが分からない。もしかしたら、明日にでも死んでしまうかもしれないのに、僕はそんな先のことまで考えていられない。今を生きることで、もう精一杯でそんな先のことまで考える余力はない、と思ってしまう。
 きっと、1日1日は限りない奇蹟の上に成立しているのだと思う。僕が今日まで生きてこられて、そして、僕を支えてくれる人たちが周りにいてくれることは、本当に素晴らしいことなんだ。
 
 この本は、終わりを突きつけられた人々のそれぞれの反応を描いている。生きることと死ぬことは、案外、近接しているのかもしれない。 
2006.08.17 Thu l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲
フラッタ・リンツ・ライフ―Flutter into Life
フラッタ・リンツ・ライフ―Flutter into Life


″毎朝起きると、今日も飛べない、と思う。
 毎日、もう空はどこにもない、と思う。
 でも、生きているし。
 呼吸をしているし。
 こんな場所で、空も見えないような場所で、
 人間は生きていけるものなのだ、と気づいて。
 これが生きている状態だ、としたら。
 死んでいるのかもしれないじゃないか。――"『フラッタ・リンツ・ライフ』より抜粋
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評価:☆☆☆☆☆

 この場所は何よりも自由で、何処よりも静かで、とても素晴らしい。それなのに、いつまでもこの場所にはいられない。飛行機に乗って、身体をうんと軽くしてそれと同化して、やっと僕は本来のこの場所に帰ってこれたんだと知る。地面を歩いている時に感じる鉛のような身体の重さも、この場所では気にならない。どこまでもいつまでも飛んでいけそうな気がする。そうして、いつかふと意識が途切れて、寿命を終えるのが僕の夢だ。
 死ぬ時は空でなくてはいけない。間違っても地上に這いつくばっている時に死にたくない。僕の心が、地上でのくだらない関係や思考を断ち切って、真に自由になれる時、それは空の上にしかない。だから、地上にいる間に起こる全てのことは、所詮、人生のサブエピソードと言ったものでしかない。全ての事象に対し、冷静に見ているもう一人の自分がいる。そうしていれば、くだらない感情に振り回されることはないし、そもそもそういったことに、僕は酷く興味が無い。
 空を飛ぶ間だけ、生きていることを心から実感出来る。だからいつまでも飛び続けたい。それ以外のことは本当に些細でどうでも良いことだ。どうか一秒でも長く、空を駆け抜けていられますように・・・・・・。


 スカイ・クロラシリーズの第4弾。相変わらず、地上のどうしようもない気だるさと、空の果てしない爽快さは健在だ。このシリーズを読むたびに僕は空を飛びたくて仕方が無くなる。何故、空はこんなにも魅力的なのだろう。飛行機を操れる登場人物たちでさえも、自由には空を飛べない。彼らは戦争をしていて、そのひとつのコマに過ぎないからだ。
 地上にいたらきっと真の自由なんて感じられないんだ。空を飛ばないと・・・・・・そんな気持ちにさせられるこの本はある意味、危険でとてつもない魅力に満ちている。

 次回作も非常に楽しみだ・・・・・・もう今から待ちきれない。

2006.08.11 Fri l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲
博士の愛した数式
博士の愛した数式


″「真実の直線はどこにあるか。それはここしかない」
 博士は自分の胸に手を当てた。虚数について教えてくれた時と同じだった。
「物質にも自然現象にも左右されない、永遠の真実は、目には見えないのだ。数学はその姿を解明し、表現することができる。なにものもそれを邪魔できない」――"『博士の愛した数式』より抜粋
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評価:☆☆☆☆☆

 算数や数学・・・・・その言葉を聞くだけで、僕は一種の拒否反応を起こしてしまう。それ以上、その内容に関して聞く耳を持たずに、ただ拒絶し、見ないようにする。けれど、数ヶ月前から始めた家庭教師で、僕はこれらと向き合わざるを得なくなった。それは最初苦痛だった。いや、苦痛だと思っていた。でもすぐにそれは杞憂に過ぎなかったと気付いた。僕は自分でも驚くべきほどに小学校、中学校に習った内容を覚えていた。所々、うろ覚えの部分があったり、数字の名前・・・・・・虚数とか素数とかいったものは、忘れてしまっていたりしたが、それも、解説を読むことによりすぐさま思い出した。そして、元々、数を操るということは、とても楽しいことだったのだと思い出した。
 数字の世界は本当に奥が深い。そこには、ロマンがある。生涯をかけて数学の定理を証明することに費やした数学者たちの・・・・・・。もちろん、僕はその足元にも及ばないだろうし、数学書を読もうと思ったことは一度も無い。けれどそもそも、算数や数学とは、そこまで高尚な学問だろうか。私たちの身の回りには数字が溢れている。買い物をする時、私たちは値段を見てそれを計算する。料理をする時、軽量カップで何CC必要か量る。
 数字たちは、実はとても素晴らしい法則を秘めている。それに気付いているだけで、日常で見る何気ない数字が異なって見えてくる。世界が違って見えてくる。それに気付かせてくれるのが、この本だ。

 数学博士で、数字に関してなら天才的なのに、病気のせいで80分しか記憶が続かない「博士」、そこに家政婦として働く「私」と息子の「ルート(博士が命名)」の関係が、とにかくいい。心がじんわりと暖かくなる。お互いがお互いを、たいせつに想っている・・・・・・そこから生まれる限りないやさしさ。数字を介した溢れる愛情があるのだということを気付かせてくれる本。

 
2006.08.10 Thu l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲
NHKにようこそ!
NHKにようこそ!

″「俺は誰よりも欲張りなんだ。中途半端な幸せは欲しくないんだ。ほどほどの温もりなんて、いらないんだ。いつまでも続く幸福が欲しいんだ。しかし、それは無理だ!なぜかは知らないが、この世の中、かならずどこかで邪魔が入る。大切なモノは、速攻で壊れる。――二十二年も生きてるんだぜ。そのぐらいのことは知ってるさ。どんなものでも壊れるのさ。だから最初から、なんにもいらない方がいい」――"『NHKにようこそ!』より抜粋
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評価:☆☆
著者がひきこもりで、この小説自体もひきこもりの主人公が登場するので、妙にリアルだ。面白い。けれど、先が見えてしまう展開をあえて我慢して読めるかどうかだろう。それに、登場人物たちがことごとく駄目人間ばかりなので、それを拒絶する人にはオススメしない。中途半端ではなく、かなりの駄目人間たちなのである。

ねぇ、NHKって何の略か知ってる?
2006.08.09 Wed l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲
バスジャック
バスジャック

″「マネキンだから何?」
「だから何って、だから、マネキンだろ?」
「マネキンだからって、だれかが大事に思っているものを、あなたに壊すことができるの?そんな権利があるの?」――"『バスジャック』の「送りの夏」より抜粋
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評価:☆☆☆
 他人からすれば、なんでそんなものを大切に持っているのか?と疑問に思われ、時に嘲笑されたりすることがある。そう、それは他人から見ればただの石だ。色は黒に乳白色を入れかき混ぜたような濁った色で、川原で探せばどこにでも転がっていそうな石かもしれない。でも、僕はこの石を大切に持っている。この石は、実はNZの氷河の場所でひとつだけ借りてきた石なのだ。もう一度必ずこの場所に戻ろう、そう誓いながら僕はその小さな石を拾った。僕はその石を見るたびにあの時の気持ち、天気、出会った人たちの顔・・・・・・そういったもの達を思い出す。
 どんな「もの」にだって、その当人が何らかの付加価値をつければ、それは誰にだって否定できない。そこには、彼らの「思い」があるからだ。その「もの」を否定することは彼らの「思い」を丸ごと否定することになる。


 この短編集は評価が分かれるだろうなと思う。その評価の分かれ目はどこかというと、それは、小説にその読者が求めるものである。僕は、奇想天外な話も好きだが現実に即した話も好きで一応ストライクゾーンは広い方なので、どちらもでも、あまり気にしないのだが、この短編集はことごとく、一見するとリアル性を追求しておいて、するりとそれをかわし、いきなり幻想の世界へと迷い込んでいく。その際に、読者がストーリーに付いていけるかどうか・・・・・・そこで、この本の評価は分かれる。
また、7つの短編の中に驚くほど短い作品が含まれていて、明らかに描写不足な気がするのが若干気にはなった。

『となり町戦争』で、長編を書いたから今回は、短編だったのだろうか。僕はこの作品の中で、「送りの夏」がとてもよいと思ったが、その作品がこの短編集の中で一番の長編である。個人的な思いだが著者には今後、長編作品を書いて欲しいと願っている。

2006.08.08 Tue l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲