スクラップ・ストーリー―ある愛の物語
スクラップ・ストーリー―ある愛の物語

″逢うこともなく別れた人へ――
本当のことを言えば、僕はまだこの言葉が好きだ。――"『スクラップ・ストーリー』より抜粋
スタイル:小説(文庫)
評価:☆☆☆
 
 この本を読んでいて、どこか村上春樹の小説と相通じるところがあると思った。かと言って、それが洗練されているかというとそうでもなく、タイトル通りどこか抜けている。主人公が女性を愛して、その結果どうなっていくか・・・・・・それを描いているのだが、設定自体は至ってありふれたものだし、読み終わっても何の感慨もなく次の日にはこの本を読んだことも忘れてしまうほどだった。
 でも、この感想を書くに当たって、もう一度ペラペラとページを捲ったら、所々に光る表現を見つけることが出来た。それがあったということに気付けただけで、この本の存在意義があったような気がした。
 余談だが、この小説では30歳の自分が18歳の自分を振り返る・・・・・・という設定になっている。僕は現在22歳だが、既に18歳の時の記憶なんてあまり覚えていない。いや、逆に近すぎてまだ思い出すという領域にまで到達していないのかもしれない。ただ、過去を振り返って自分の幼さに気付かされた・・・・・・ということはこれまでに何度かある。その当時はそれが最善の答えだと思っていたのに、実はそれが、最悪の答えだったなんてこともあった。しかし、その事実に気付かないまま数年が過ぎてから、やっと気付くという経路を辿っていた。これが若さというものだろうか。
 若い頃は失敗しても許されるんだ・・・・・・とよく言われるが、僕自身は幾つになってもきっと失敗の連続だろうと思う。そんな自分に対し、特に悲観もしていないし楽観もしていない。そういうこと自体が無意味なことだと気付いたから。人間はきっと、幾つになっても失敗をする生き物だろうと思う。それが無ければ、ただのロボットと一緒だから。そんな世界はものすごくつまらないし味気ない。
 一人の人間が生きていれば、色々な事がある。人に語れない過去を抱えている人も山ほどいる。そういう一人一人の生き様を描くのが小説なのではないかと僕は思う。この小説がたとえ、「スクラップ」だとしても、この小説の中の主人公の生き様、考え方はきっと読者の心に何かを残すに違いない。そういったものは、心の奥深くにしまいこまれて、ふとした瞬間に表出することもあるだろうし、一生しまわれたままになる可能性もあるだろう。とにかく小説はその程度のものであり、でもそこが魅力でもある。
2006.10.26 Thu l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲
ブルースノウ・ワルツ
ブルースノウ・ワルツ

″「子どものうちは、ただばくぜんと未来は明るい気がしてるけど、大人になればわかるのよ。自分がつまらない人間だってこと。あんた、今それがわかりそうで怖いのよ。だから大人になりたくないのよ」――"『ブルースノウ・ワルツ』より抜粋
スタイル:小説(ハードカバー)
評価:☆☆☆
 
 幼い頃に考えた二十歳を越えた自分は、完全なる大人だった。大学生になってるだろうとか、職に就いているかもしれない・・・・・・とかそういう具体的なことではなく、その当時の自分にとって二十歳を越えた年齢の人たちは限りなく遠い存在であったからだ。そしてその遠い存在こそが自分にとっての大人なのだった。自分もいつか、生きていればその年齢に到達するのだと知識ではわかっていても、自分が二十歳になるなんて全くイメージが湧かなかった。
 そして、二十歳になった。成人式にも行った。でも、自分が大人になったという実感なんて何もなかった。ただ、子どもの自分が歳を重ねた・・・・・・ということだけだ。そもそも、二十歳から大人になるなんてそんなルールは何処にもない。僕が思うのは、大人と子どもの境目というのはなく、その当人自身が大人だと思えばそれは大人であって、いやまだ子どもだと思えばそれは子どもなのではないか。
 しかしながら、上記に抜粋した文章に書かれていることは、現在22歳の自分には、大いに頷けてしまうところがある。自分は決してスペシャルな人ではなく、むしろ普通以下のダメ人間なのだということに一度気付いてしまうとそれをなかったことにすることはもうできない。そしてそれに気付くと、いろいろなことから逃げるようになった。可能性が少しでも残っていても、どこかで諦めるようになった。そんな自分の状態に何度も自己嫌悪に陥ったが、それを改善しようとも思えなかった。現実には自分がいくら頑張っても努力してもどうにもならないことは山ほどあった。そして、それを知るたびに、色々な諦めたことが重なっていった。
 でもその一方で、ここまで生きてきたからこそ、知ることが出来たものもあった。幼かった頃には思いもしなかった素敵なことがまだこの世界には残っているのだと感じることも出来た。そう、全てが悲観的なことではないはずだった。このことを自分は忘れないようにしたい。もちろん、幼かった頃の気持ちも忘れたくはない。
 一番したくないのが、昔は良かった・・・・・・と過去を振り返ること。大人でも子どもでも、悪いことがあれば良いことがあったはずで、でも人間はとにかく過去を美化したがる傾向があるようで自分もそれを否定できない。だからこそ、この事実をいつまでも忘れたくないのだ。良いこともあれば悪いこともある。それは過去も今もそして未来もきっと変わらないのだろう。だから、勝手に自分の過去を自分の単なるその時のフィーリングで「小さい頃はあんなに楽しかったのに、今は・・・・・・」と思ったり感傷に浸ったりすることはしたくない。

 小説の感想だが・・・・・・どこか文章に棘があると思った。それが自分にとっては少しマイナスなのだが、きっとこれは人によって評価が異なると思う。女性らしい美しい表現が目に付いて、それは嫌いではなかった。読み終えた時、どこか釈然としない、しっくりこないものを感じたが、それを感じるということは逆に言うとしっかりとこの小説を楽しんでいたということだろう。少なくとも読んでいる間は。感想を書いているようで、どんなストーリーか全く紹介していないが、気になる方は、本をクリックして調べて下さい・・・・・・上手く説明できません(苦笑。
2006.10.12 Thu l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲
僕の生きる道
僕の生きる道

″――僕は第二の人生を歩き出した。僕に未来がないのならば、今を大切に生きよう。僕は、今を生きるんだ。――"『僕の生きる道』より抜粋
スタイル:小説(ハードカバー)
評価:☆☆☆☆

 人生は限りがある。誰にだっていつかは終わりが来る。それは当然のこと。でも、そういうことに、なかなか目を向けない。気付いていても気付かない振りをする。今日の次には明日が必ず待っている・・・・・・そう思って生きている。けれど、それは正しくない。生きていれば「死ぬこと」がいつかは起こる。それは当然のこと。そしてそれがいつ自分の身に降りかかるのかということは誰にも分からない。だから、出来ればそういうことは考えないようにする。死を遠ざけて、生きようとする。それが悪いことだとは僕は思わない。でも、死を見つめなければ見えないものがある。死を意識して初めて生の尊さが見えてくることがある。そんなことを教えてくれたのが、この本と同名タイトルのドラマだった。
 この本自体は、ドラマを単に小説化しただけなので、特に目新しさは感じなかった。僕はこの本を読んでいる間、ずっとテレビで放映された映像を思い浮かべながら読んでいた。
 「あと一年しか生きられない」そう医師から告げられた物理教師の主人公が生きる様を描いている。これはドラマだ。実際の話ではない。だから、展開にはやや楽観的過ぎる嫌いがあるのは否めない。実際の世界に同じような人たちがいても、こんなにも綺麗には生きられないだろう。でも、死を見つめることによって生が見えてくる・・・・・・ということを、これほど分かりやすく、しかもテレビのドラマで見せてくれる作品を僕は他に知らない。

 僕は、今を生きている・・・・・・そのことさえ、時々忘れてしまう。そして、悩まなくて良いことにさえ頭を抱えたり、もうどうしようもないと絶望になったりする。生きているだけで十分なのに。だから、時々、この本を読み返して、生きていることを思い出したい。

2006.10.07 Sat l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲
D‐ブリッジ・テープ
D‐ブリッジ・テープ

″「あんた・・・・・・」
「この前は俺、おしまいだって言ったよな」
「だけど、まだ言いたいことがあるんだ」
「・・・・・・もう少し聞いてもらう」
「いいか、ちゃんと最後まで聞けよ」
「俺は、な」
「俺は・・・・・・」――"『D-ブリッジ・テープ』より抜粋
スタイル:小説(文庫)
評価:☆☆☆☆☆

 本の最後に、後書きがある本と無い本がある。個人的には作者には後書きを書いて欲しいと思うのだが、それはもちろん書かない人もいるし、必要ではないと思う人もいるだろう。
 では、解説はどうか。これは線引きが難しい。解説があることで、却って物語を損ねてしまっている作品を僕は読んだことがあって、その経験からあまり良い印象は持っていない。だが、しかしこの『D-ブリッジ・テープ』の解説は違った。この解説があったから自分はこの本を読んでみる気になった。どういうものかというと、もう絶賛しているのだ。その部分を一部抜粋してみる。

”・・・・・・この作品は間違いなく日本の文学史に残る。残していくのは我々の仕事ではなく、これを読んだ読者たちの力によってであろう。我々はこれを世の中に出す機会を与えたに過ぎない・・・・・・”

 こんなに文句なしに絶賛している解説なら・・・・・・と思い、僕はこの本を読んだ。そして、この解説が本当に正しいことを知った。それだけ、衝撃的であり、心に深く突き刺さった。この本は、極限状況に置かれた人間の話なので、非常に残酷的なシーンが度々登場し、映像を思い浮かべることさえ躊躇われるほどだ(でも酷く生々しいからそれはとても困難なのだけれど)。
 それでも、最後まで読み終えた時、心が震えた。決して、納得のいくラストではなかった。幾つか疑問点が残ったし、それはそのままになっている。それにデビュー作だからか分からないが、「とても良くできた小説」とは言い難い荒削りな印象も受ける。けれど、それ以上に僕の心に残ったのは、「人が生きること、人が人を愛すること」が、ストレートに描かれていたということだ。
 
 こんな小説が、この世の中にあったなんて・・・・・・それくらいの衝撃があった。何故、この小説はもっと有名になっていないのであろうと不思議なくらいだ。軽い小説は山ほどある。何も起こらない日常の小説もたくさんある。それら自体を僕は否定するつもりは無い。しかし、こんなに重くてリアルで痛々しくてそれでいて、生きることを真っ直ぐに伝えている小説は、なかなか無い。

 余計なことばかり書き過ぎた気がする。きっとこの本を読むのには、体力が要ることだろう。文章から目を背けたくなることだろう。それでも、この小説の持つ力を一人でも多くの人に知ってもらいたい。

2006.10.01 Sun l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲