地球儀のスライス
地球儀のスライス

″僕は黙って食事を続ける。関わり合いにならない方が良いかな、と思った。馴れ馴れしい連中は嫌いだし、自分も馴れ馴れしく振舞いたくない。少なくとも、僕の過半数はその意見で、残りは、最初から関心がなくて無効票だった。――"『地球儀のスライス』の「僕は秋子に借りがある」より抜粋
スタイル:小説(ノベルス)
評価:☆☆☆☆


 人を信じることは難しい。嘘や欺瞞なんて、ありふれていて、それさえも真実に摩り替わっていく時代だ。何を信じられる?誰を信じられる?だったら最初から関わらない方が良い。不毛な時間を消費するだけだ。それなのに・・・・・・。


 森博嗣の短編集。前にも書いたかもしれないが、僕は森の短編に関してあまり良い印象を持っていない。しかし、この本に関しては、なかなか面白かったという印象を持った。全ての短編が良かったとは思わない。けれど、「僕は秋子に借りがある」という作品が、自分の中では、とてもよいと思った。特に、ラスト4ページが素晴らしい。肌が粟立つほど、感動した。
 小説というものは、こういうものだ、と思った。こんなことを書くと、森は、そういう定義自体が無意味だと言いそうだけれど。
 現実にありえそうで、やっぱり無い、そんな話。僕も、こんな話を書きたいと思った。

2007.02.26 Mon l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲
100回泣くこと
100回泣くこと

″知識は僕に語りかける。全ては終わるのが大前提なのだと。いつか訪れる終わりを前提にした、生であり愛なのだと。そういう道理なのだと。――"『100回泣くこと』より抜粋
スタイル:小説(ハードカバー)
評価:☆☆

 これは恋愛小説なのだけれど、僕は、それよりもサブエピソード的に登場する主人公と犬の関係に惹かれた。それは僕が、厳密にいえばうちの家族が犬を飼っているからに他ならない。
 うちの犬は、既に14歳になるチワワとポメラニアンの雑種だ。とっくにおじいちゃんになるのに、可愛さは僕が小学生だったあの子犬の頃となんら変わりは無い。けれど、写真で見てみるとやっぱり、年をとったんだなぁなんてことを思う。口の周りの髭が白くなっていたり、黒かった目も今では乳白色が流れ込んだみたいに白くなっている。それでも、目は見えているし、散歩に行こう、というと元気に尻尾を振ってくる元気な奴だ。
 僕は、彼と14年の付き合いになる。生まれて5ヶ月程度の子犬だった頃、僕の家族は彼を飼うことに決めた。僕は多分、小学生だったと思う。それから、彼とずっと暮らしてきた。僕は、けれど、小、中、高校の頃はあまり散歩に行かなかった。大抵は母が行っていた。単に面倒臭かった。犬を飼うということは、楽しいことや癒されることばかりじゃない。糞の始末から、病気になったら人間よりも莫大なお金が掛かったり、やたらと手間が掛かる。それに何より、毎日散歩に連れて行かなければならない。自分が気が向いたときだけじゃない。雨の日も風の日も、365日毎日だ。これが正直に言ってしまえば、面倒なのだ。
 僕は学校に行く。両親は会社へ行く。帰宅するのが早い人が必然的に犬の散歩に行く事になる。朝、晩2回散歩に行くが基本的に平日の夕方は僕か、弟が行く。しかし、最近は弟が早めの夕方からのバイトに入っているため、僕が行くことが多くなった。
 けれど、それがあまり苦ではなくなっていることに、最近気付いた。一日中自宅にいて、ふと散歩の時間だと思い出して外に出てみると、真っ赤な夕焼けが目に飛び込んできたり、やさしい桃色と黄色のグラデーションに、心が安らかな気分になる。
 この時だけは、僕は極力何かを考えないようにしている。普段はやたらと色々余計なことばかり考えているから、頭の中がごちゃごちゃちらかっている。犬の散歩はそれを整理するというか、全てをリセットしてしまう行為と等しい。夕焼けが綺麗だな、とか、今日はあたたかいな、さむいな、とかそういう当たり前の感情を取り戻すこと。それが、出来る事に気付いてからは犬の散歩が苦ではなくなった。
  
 かなり脱線している。この本は、犬が好きならまぁ楽しめると思う。僕はそれでも、この本の良いところがあまり思い浮かばない。恋愛小説としては、はっきり言ってありきたり過ぎる設定なのだ。誤解を恐れずに書いてみると、どこか軽い。だから、読みやすい。最近の小説はその傾向が強いような気がしている。これが悪いことというよりも、読者がさらりと読めて適度に感動する小説を求めているという時代背景を表しているように思う。

2007.02.26 Mon l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲
有限と微小のパン
有限と微小のパン

″「相応しい人間でしたか?博士のパートナとして」犀川が尋ねた。
 真賀田博士はくすっと吹き出して、下を向いたが、すぐに青い目を犀川に向ける。
「まさか・・・・・・」彼女は口もとを緩ませる。「パートナが必要な人間に見えます?それは、欠陥がある証拠ではありませんか?」――"『有限と微小のパン』より抜粋
スタイル:小説(文庫)
評価:☆☆☆☆

 人は群れたがる。誰かと一緒にいることで、自分を認めてもらおうとしたり、自身の存在意義を確認したりする。それは、人間が本質的に弱いからだ。この世界に生きる大部分の人がきっとそうだろう。そして、そのことがきっと悪いというわけでもないのだろう。しかし、ごく一部の人たちは、他者を必要としない。基本的に他者と一緒にいることで、プラスにならずマイナスになるケースがある。それが、いわゆる天才と呼ばれる人たちであろう。彼らは、自分以外の他者が大抵自分より能力の低い者達ばかりという状況である。よって、そんな他者と行動を共にすることで、その当人にとっては何のメリットも生まれない場合が少なくない。むしろ、他者と行動をすることは、何かしらのハンディキャップを生み出し、マイナスになってしまうのだ。つまり、天才と呼ばれる人は、他者を必要としない。自身が完成されたプロトタイプなのだから。
 僕は天才ではない。天才になることも出来ない。本当の意味での天才は孤独だ。そして、それこそが洗練された彼らにとって実力を発揮できるステージになる。

 書評に入る。
 S&Mシリーズ最終巻。天才真賀田博士が再登場する。以下、ネタバレがあるので、未読の方はご注意。

 長崎にあるテーマパークを訪れる萌絵たち。そこで、案の定、殺人事件が起こる・・・・・・。この小説では、「場所」がとても重要なのだ。テーマパークという閉じた世界。そこで起こる数々の不可解な出来事。
 比較的、おや?と思うシーンが幾つかあって、全体的な印象では、所々でヒントがちりばめられていて先が予想できてしまった感がある。しかし、この小説の本質は事件についてではなく、天才真賀田博士についてであろう。最後の数ページは、予想もしていなかった事実に、驚かされた。
 ただ、個人的にだが、犀川と萌絵の今後は、どうなったのだろう・・・・・・と思わないでもない。このシリーズ以外にも、彼らが登場する本があるようなので、そちらで確認しろということか。それとも、これ以上進展させるとつまらないから、あえて、今の微妙な関係で終了させたということだろうか。僕は、それはそれで良いなとも思ったのだが。

2007.02.03 Sat l 小説 l COM(0) TB(0) l top ▲