銃とチョコレート

"「なにをするつもり?」母がロイズの拳銃を見てふあんそうな顔をする。
「男はきそいあう生きものなんですよメリーさん。しずかにここにいてください。しんぱいしなくてもだいじょうぶ。あなたのために、生きてかならず・・・・・・。」
「しんぱいしてませんし、かえってこなくていいです。」
「あ、そうですか・・・・・・。」――"『銃とチョコレート』より抜粋
スタイル:ハードカバー
評価:☆☆☆☆☆
本当に久し振りの乙一の新作である。この本を読み終えて、これまでの乙一作品の中でも、相当上位に入る部類ではないかと思った。乙一はミステリ作家としての面も備えているが、この本ではそれが十二分に発揮されている。全てを読み終えるまでに、様々な伏線が用意されていて、実に飽きることが無い。
もちろん、乙一らしい文章も健在だ。この本は子ども向けの本として位置づけられているが、子どもでも読めるようにルビが振ってあるというだけで、決して侮ってはいけないのである。確かに読みやすいし、面白い。けれど、ただ単純な児童書では決して無い。それはストーリーの展開からもいえる。
(以下、ネタバレの要素があるので、知りたくない人は読まないで頂きたい。)
少しネタバレになってしまうかもしれないが、あえて書くと、この本では安易に何でもかんでも「善悪」という振り分けをしてしまいがちな私たちに対する挑戦もしくは警鐘であるかのようにも思えるのだ。善とは、つまり自分の立場で考えた際の見方であるが、逆を言えばそれは他者の悪になりうる。この本では善悪が途中で逆転してしまう。これには正直驚かされたし、正直ちょっと違和感が残ったのだが、だからこそこの本の魅力はとても高いのだ。つまり、私たちは普段から、善悪二元論で全てを振り分けようし、物語を読む際にも、この登場人物は主人公にとって敵か見方か?という認識を勝手に行っている。人間は物事をカテゴライズすることが好きであるし、それをしない、あるいは出来ないと、妙な不安に駆られるのである。この本を読んだ読者の大半は、最初味方だと思っていた登場人物に対し途中で、一転して敵だという認識に思考を切り換えなければならなくなる。この際に、違和感だとか、何とも言いようの無い不安定さを感じるのだ。それはつまり、この登場人物は敵か見方か?という区別をつけることが困難になったということである。
ついでに書いておくと、この本では、主人公は移民の息子である。それによって、その国に住んでいる人たちから、あからさまな差別を受けることも多い。これは、もうそっくりそのまま現実の問題と当てはめることが出来る。人間は、自分と違った存在をとかく排除したがる。表向きはそんなことはないと言っても、それはふとしたことから表出し、その当人たちの心に傷を残していく。
これは物語であるから現実とは違う。でも、広い意味で色々な問題提起がメタファとして隠されているような気がしてならない。冒頭で、単なる児童書ではないと述べたのは、このためである。
乙一自身が、このことについて、あえて考えてこの物語を作ったのかどうかは分からないが、その要素を持っているというのはすごいことであると思う。
(ネタバレかもしれない範囲以上で終了)
とにかくこの本は、1冊の本として、とても完成度が高い。本の中身はもちろんのことだけれど、少しアンティークなスタイルの装丁、挿絵が物語に入る為の手助けとなっている点、何もかもが素晴らしい。
余談だが、この本の中で、主人公の母親をとても気に入ってしまった。彼女は本当に良い人として描かれているが、でも彼女もまたある1点において別の面を見せている。これも人間の多面性を見せているように思える。
ユーモア、ミステリ要素、そして、いろいろな事を考えるきっかけになる要素がこの本には詰まっている。読者は、そのどれか1つでも良い、全てでも良い、自由に選択して気ままにこの本を読めるだろう。
全ての人に無条件に薦めたい本。

"「なにをするつもり?」母がロイズの拳銃を見てふあんそうな顔をする。
「男はきそいあう生きものなんですよメリーさん。しずかにここにいてください。しんぱいしなくてもだいじょうぶ。あなたのために、生きてかならず・・・・・・。」
「しんぱいしてませんし、かえってこなくていいです。」
「あ、そうですか・・・・・・。」――"『銃とチョコレート』より抜粋
スタイル:ハードカバー
評価:☆☆☆☆☆
本当に久し振りの乙一の新作である。この本を読み終えて、これまでの乙一作品の中でも、相当上位に入る部類ではないかと思った。乙一はミステリ作家としての面も備えているが、この本ではそれが十二分に発揮されている。全てを読み終えるまでに、様々な伏線が用意されていて、実に飽きることが無い。
もちろん、乙一らしい文章も健在だ。この本は子ども向けの本として位置づけられているが、子どもでも読めるようにルビが振ってあるというだけで、決して侮ってはいけないのである。確かに読みやすいし、面白い。けれど、ただ単純な児童書では決して無い。それはストーリーの展開からもいえる。
(以下、ネタバレの要素があるので、知りたくない人は読まないで頂きたい。)
少しネタバレになってしまうかもしれないが、あえて書くと、この本では安易に何でもかんでも「善悪」という振り分けをしてしまいがちな私たちに対する挑戦もしくは警鐘であるかのようにも思えるのだ。善とは、つまり自分の立場で考えた際の見方であるが、逆を言えばそれは他者の悪になりうる。この本では善悪が途中で逆転してしまう。これには正直驚かされたし、正直ちょっと違和感が残ったのだが、だからこそこの本の魅力はとても高いのだ。つまり、私たちは普段から、善悪二元論で全てを振り分けようし、物語を読む際にも、この登場人物は主人公にとって敵か見方か?という認識を勝手に行っている。人間は物事をカテゴライズすることが好きであるし、それをしない、あるいは出来ないと、妙な不安に駆られるのである。この本を読んだ読者の大半は、最初味方だと思っていた登場人物に対し途中で、一転して敵だという認識に思考を切り換えなければならなくなる。この際に、違和感だとか、何とも言いようの無い不安定さを感じるのだ。それはつまり、この登場人物は敵か見方か?という区別をつけることが困難になったということである。
ついでに書いておくと、この本では、主人公は移民の息子である。それによって、その国に住んでいる人たちから、あからさまな差別を受けることも多い。これは、もうそっくりそのまま現実の問題と当てはめることが出来る。人間は、自分と違った存在をとかく排除したがる。表向きはそんなことはないと言っても、それはふとしたことから表出し、その当人たちの心に傷を残していく。
これは物語であるから現実とは違う。でも、広い意味で色々な問題提起がメタファとして隠されているような気がしてならない。冒頭で、単なる児童書ではないと述べたのは、このためである。
乙一自身が、このことについて、あえて考えてこの物語を作ったのかどうかは分からないが、その要素を持っているというのはすごいことであると思う。
(ネタバレかもしれない範囲以上で終了)
とにかくこの本は、1冊の本として、とても完成度が高い。本の中身はもちろんのことだけれど、少しアンティークなスタイルの装丁、挿絵が物語に入る為の手助けとなっている点、何もかもが素晴らしい。
余談だが、この本の中で、主人公の母親をとても気に入ってしまった。彼女は本当に良い人として描かれているが、でも彼女もまたある1点において別の面を見せている。これも人間の多面性を見せているように思える。
ユーモア、ミステリ要素、そして、いろいろな事を考えるきっかけになる要素がこの本には詰まっている。読者は、そのどれか1つでも良い、全てでも良い、自由に選択して気ままにこの本を読めるだろう。
全ての人に無条件に薦めたい本。

